お侍様 小劇場 extra

     “boy meets boy〜寵猫抄より
 


先月末の途轍もない落差の寒の戻りはどこへやら。
全国的に気温も上がって、GWばりの陽気になった四月の某日。

 「異様な暖かさで油断させて、
  一夜で“ダウンジャケットよお帰りなさい”をさせた、
  何とも小意地の悪い“弥生”であったにの。」

もうすっかりと暖かくなり、
窓辺近くのフローリングを目映く照らす、
明るい陽だまりに居続けると、
汗ばむくらいのいいお日和。
綿の入ったラグをそこまで引っ張ってっての、
昼間のリビングでの特等席に陣取った勘兵衛の言いようへ、

 「だっていうのに、
  コタツをなかなか片付けさせてくれないんですよね。」

桜色だろか、淡い緋色のTシャツに、
スリムなシルエットのチノパンを合わせた、
なかなか軽快ないで立ちの秘書殿が、
やれやれという苦笑を、形のいい口許へと浮かべ、
丁寧に淹れたお茶の芳しい香り立つお湯飲みを、
黒塗りのお盆に乗っけて運んで来た。
手から手へ手渡して、万一こぼせば危ないと、
舞いの所作ごとみたいな なめらかな動線で、
こちらも床へとお膝を落としてのそれから、
盆ごと相手のすぐ傍らについと進めた彼だったのは、

 「みゅう?」

勘兵衛の膝の上、小さな坊やがちょこりと陣取っていたからで。
これでも…作家せんせいでありながら、
週に一度は道場で竹刀や木刀振ってる御仁。
握力も腕力も、ついでに反射神経も、
まだまだ若いのには負けないだけのお人であり。
七郎次にしてみれば、そんな彼を信用していないのじゃあなく、
ただ 坊や大事との気遣いの方が大きに働いたまでのこと。
無論、そんな順番になってることは承知だし、
こちらも そんなことくらいに憤然となんてしない壮年殿。
お膝というより腿の上、小さな身をくるんと丸め、
うとうとお昼寝しかかっていた幼い和子が、
七郎次が運んで来たもう1つ、
スプーンつきのマグカップの方へと関心を寄せたらしいのへ、

 「おや、儂より牛乳の方が良いのか。」

そんなお茶目な言いようをし、秘書殿をくすすと笑わせる。
武道を続けておいでの恩恵、しゃんとした背中や上背は、
縮れてしまうくせのある、長めの蓬髪垂らしたその上、
濃い色のカーディガンの深色に引き絞られて、
ありきたりな体格に見せているけれど。
いかにも生え抜きの文系を装い、
学者然として納まり返って見える落ち着きようと裏腹に、
その胸板や腰回りは、筋骨堅く引き締まっており。
湯飲みを持ち上げた大きな手なぞ、
節の立ったいかにも武骨な見栄え。
とはいえ、その手で何をやらせても、
不思議と、不器用そうにとか野暮ったくは見えない。
武道における所作ごと、一通りの作法を身につけているが故の、
機能美というものが現れるからであり。

 「みゃ?」
 「え? あ、ごめんごめん。ミルクだったね。」

惚けたようにぼんやりと見とれ、
マグカップのミルク、
無意識のままにスプーンで掻き混ぜ続けていた誰かさん。
小さな坊やがこちらのお膝の方へとにじり寄り、
いつものようにスプーンで飲ませてくれるの、
いい子で待っているのにやっと気がつき。
掬い上げたお匙の一口、ふうふう吹き冷ましてから、
どうぞと小さな王子様の口許へ。
こなた様も慣れたもので、素直にお顔を寄せてゆき、
冷たくはない木のお匙にお口をつけると、
好みの甘さになっているミルク、ぴちり・こくこくと堪能なさる。
金の綿毛が陽に暖められて、小さなおでこへとかかる加減とか、
その下で伏し目がちになった目許の、
頬に伏せかけられた瞼のなめらかな線だとか、
唇の緋色からちろり覗いた舌先の赤、
濡れてちょっぴり深色になった口許の愛らしさとか…とかとかvv

 「〜〜〜〜〜〜。////////」
 「……落ち着け、七郎次。」

惚れてまうやろは この春も健在らしいです。
(こらこら・笑)
ところで先程、何か言いかけていた七郎次さんではなかったですか?

 「そうそう。」

すっかりと暖かくなったっていうのに、
コタツをなかなか片付けさせてくれないとかなんとか。

 「久蔵は猫だからの、ふわふわした感触に惹かれても仕方があるまい。」
 「私は、久蔵が片付けさせてくれないとは一言も言ってません。」
 「お?」

今でこそ、そのやぐらコタツからやや離れた窓際の空間に、
家人全員が集っておいでの、島田せんせい以下ご一同だが。
小さな仔猫の久蔵くんは、
コタツも好きだがむしろ家人の二人のお膝の方がお好き。
今も何がくすぐったかったか、ふるるっと頭を振るってのそれから、
すぐ手前にいた七郎次の膝頭へ、小さなお手々をちょんとつくと。
よいちょと乗り上がって来て、にぁんvvとミルクのお代わりをねだる、
その小首の傾げようの愛らしさとか…とかとかvv

 「〜〜〜〜〜〜。////////」
 「……落ち着け、七郎次。」

惚れてまうやろ Part.2。
(おいこら)
冗談はともかく、
どうやら…納戸から久々に発掘して来ての三月からこっち、
寒の戻りが襲い来たのへも重宝して使い続けていたコタツさんへ、
最も情深く接しているのは、

 「執筆にと書斎へ籠もっておいでのとき以外は、
  ソファーや此処じゃあなくの、必ずコタツの方へ入っておいででしたしね。」

背中を丸めての縮こまってなどはいなかったところが、
頼もしいお父さんぽさを醸していましたがと、
にっこり微笑って付け足されては。
揚げ足取っての揶揄するかと、
大人げなくも怒るワケにもいかなくて。

 「にぁん?」

ましてや そのお膝には、
すべらかな頬もふわふかな、愛くるしい仔猫さんがおいで。
ぷくり・ふくふくしたお手々を伸ばして来、
抱っこをせがまれでもした日にゃあ、

 「にゃあ?」
 「なんだ七郎次、久蔵の真似なぞして。」

不意なこととて、どうした?と。
そこまでの会話も放り出し、如何したかと身を乗り出しかければ、

 「いえ、今のは私じゃあなくて…。」

そうと返した彼の膝から、小さな仔猫がぴょいっと立っての駆け出して。
どうやら何かの気配を感じ取り、それへの反応示したらしく。
寸の足らない小さなあんよ、
てってこてってこ ばたつかせるよに駆けて駆けて。
刳り貫きになったリビングへの戸口まで至ったそのまま、
お顔をその向こうへまでと伸ばして見せるから。

 「? 誰か来たのでしょうか?」
 「ドアチャイムも鳴らさずにか?」

そういう豪気な知己がない訳ではないけれど、
だったらだったで、玄関を上がった辺りから、
居るかおいと豪快な大声での呼びかけ、あいさつ代わりに掛けて来るはずで。
その場から動かぬ仔猫の元へ、
何だどうしたと、七郎次が素早く立ち上がって向かいかければ、

 「いや、俺は、怪しい者じゃあなくってだな。」

  ―― はい?

やはり誰かが居るらしく、ただ、そのお声は……

 「…子供?」
 「ああ、そうのようだ。」

久蔵ほど幼くはなさそうだが、それでも硬質な細い声で。
頼りなくか細いというのじゃあなく、
年端もゆかぬので細っこい、芯の張ったしなやかな…男の子の声。

 「みいみい、」
 「引っ張るなって。」

どうやら、久蔵がそんな彼の気配に気づき、
今は“こっちへおいで”とその手を引いてでもいるらしく。
そして来訪者の方は、坊やのそんな積極さへ戸惑っているらしく。

 「…というか、久蔵がどう見えているのだろ。」
 「あ…。」

聞こえたのは間違いなく人の声だった。でも。
当家の久蔵坊や、実はこちらの二人以外にはメインクーンの仔にしか見えぬ。

 「仔猫相手に人扱いする子かも知れぬ。」
 「ですが…。」

止まってしまったその足を、再び動かしての戸口までを歩み寄った七郎次。
引っ張るなと抵抗している相手に逆に引っ張られてか、
その姿がお廊下へと出てしまっていた家人の坊やを、
ひょいと見やったその視野の中、
間違いなくのもう一人、見慣れぬ人物の姿を認めた。

 「あの…。」
 「え? あっ。////////」

わざわざのお声を掛ければ、それでやっと七郎次に気がついたらしく。
小学生くらいだろうか、まだまだ小さな男の子。
やはりこの家の家人ではないし、知己でもない人物ではあったれど。
ただ…見慣れぬというのは少々語弊があったかも。
というのが、

  ふわふかな金の綿毛が、細い肩の上、動作に合わせて軽やかに揺れて。
  ゆるいクセがあるせいか、少ぉし長めに揃えられた前髪の下、
  対になった出来のいい玻璃玉のような、
  澄んだ光を集めたみたいな双眸が、
  今はちょっぴり戸惑いを含んでの不安げに揺れており。
  あごの小さな細おもてに、いかにも子供な伸びやかな肢体。
  小さな肩は愛らしいが、
  背条のぴんと張った姿勢の良さが、
  意志の強そうな、生真面目な気性を感じさせ。

   そしてそして、

  こちらの仔猫様との大きな違いは、
  金の綿毛の間から覗く、
  やわらかそうな毛並みに覆われたお耳が立っていることと、
  ほそっこい腰の背中側には
  やや警戒気味なふくらみを見せているお尻尾があって。

 「…もしかして、藍羽さんチのキュウゾウくんでは。」
 「えと…。///////」

何のお話?と惚けても良かった質問へ、
何で判るのと言いたげに。
こちらの久蔵坊やに比べると、
少しだけ年長さんな分だけ随分と凛々しく冴えて整ったお顔、
背の高いお兄さんの方へと向け直してくれた、その動作に紛らせて。
小さな手をささっと自分の背後に隠した坊やで。
それがある意味での、決定打。

 「だって。今 隠したの、神無村の桜の花びらでしょう?」
 「…っ。/////////」

小さな肩がぴょこりと撥ねたの、
すぐの間際で見ちゃった仔猫の久蔵くん。

 「みぁん?」

自分よりも ちっとだけ大きいお兄ちゃんを見上げると、
彼が羽織っていた…微妙に落ち着いた赤の地色の絣のちゃんちゃんこの裾、
うんうんと引いて見せ、

 「だから、ダメって。これはもーりんさんのお誕生日のだ。」

背後に隠した小箱、自分の頭上へまで避難させ、
渡せないよと頑張って見せて。


   …………って、あれ?


 「もしかして、キュウゾウくんて、……っ☆」
 「ウチの久蔵の言葉が判るのか?」

背後から伸びて来たそのまま、二の腕ごとの胸元へまで、
ぐるんと回されて来た長い腕へ。
わあびっくりと、まずは驚いた七郎次お兄さんの、
訊こうとしていたそのままを横取りしたのが、
こちらのお家の勘兵衛様。
小さな坊やがうんうんと懸命に、背伸びをしての取りついてるのへ、
時におとと…と押され負けそうになりつつも、

 「ああ、判るぞ。今のは、その箱 見して見してって言ってた。」

ちょっぴり頬を染めながら、そんな風に翻訳してくれて。
大人たちへとそう言ってから、

 「だからダメなんだ。これは、もーりんさんに掛けたげる花びらなんだから。」

ああやっぱりと、七郎次が目許をたわめ、
何とも言えぬ微笑ましげなお顔になって見せてから、

 「藍羽さんから伺ってますよ。
  もーりんさんトコへ行く“近道”を教えてやってと。」

でもねえと、自分チのおチビさんをひょいと腕の中へすくい上げ、
ついでに…自分の肩越し、
どさくさに紛れてややこしいこと仕掛けてる誰か様へと、
場合が場合だ、どうかご容赦とばかり。
ちろりんと斜に構えた眼差し一閃で威嚇して、悪戯な腕をほどかせてから。

 「お宅へ伺わなくとも、
  此処で待ってれば………ほら、さっきからこっちを眺めておいでだ。」

  あわわ…っ、見つかっちゃったかっ!

さぁさ、桜のお花のシャワーを、思う存分掛けてお上げなさいと、
どっちかといや“鬼は外”でもけしかけるような調子で、
頑張れ頑張れと勧める敏腕秘書殿であり。

 「みゃっ♪」
 「あ、これこれ。それはそっちのお兄さんの持って来た贈り物でしょうが。」

蓋を取り去られた小箱へ、横合いから小さなお手々を伸ばしかける“ウチの子”を、
いけませんよと窘めるおっ母様だったが、

 「あ、えと。俺は構わないぞ?」

相当量をぎゅうぎゅうと詰めて来たものか、
既にふわんと嵩増ししての、縁から溢れんばかりとなってる花びら。
ほらとこちらへも差し出してくれたキュウゾウ坊やだったので、

 「あらまあ。じゃあ、ありがたくvv」

なんだか、そちら様のご用意へ乗っかるようですねと、
恐縮している七郎次の傍らで、
そちらさんは全くもって遠慮なく、
小さなお手々を小箱に突っ込んだお猫様、

 「にゃあにゃ♪」
 「やーらかくて気持ちいいって。」

小さな小さな久蔵坊やのはしゃぎようを通訳してくれた、
大きいほうのキュウゾウくん。
うあ良い子だなぁと、
どこぞかの別な久蔵お兄さんへと感じた感慨ふたたびとなりつつも、
それじゃあ投げて…もとえ、掛けてあげよっかと、
音頭を取ったシチさんの合図に合わせ、
そぉれと振りかけられた緋色のシャワーでありまして。


  はい、そうなんです。
  四月七日に 1つ年を取った Morlin.へ、
  藍羽さんチの猫キュウさんが、お祝いにと来てくれた一幕でございまし
  可愛いお気遣いをどうもありがとうございますvv
  シチさんがお昼ご飯にと、
  錦糸たまごの菜の花ちりばめ、
  エビやさよりや づけマグロを敷いての、
  美味しいちらし寿司を作ってくれたから。
  それをいただいてからお家までお帰りなさいね?






  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.04.07.


  *皆で振りかけてくれた桜のシャワーは、
   ちょっぴり冷ややかな、まるでビロウドのような感触も優しい、
   とっても嬉しいお祝いでございましたことよvv

   ………というわけで、
   ちょっとややこしい仕立てになっちゃいましたが、
   『Sugar Kingdom』の藍羽様からのお祝いのメセジを元に、
   ウチまで来てくれた あちら様の猫キュウのお話をば、
   ちょみっと書かせていただきました。
   あちら様の猫キュウを御存知ない方には 不親切極まりない出来かもですが、
   あ〜んな凛々しかわゆい子を
   “お誕生日祝いにそちらへやりました”なんて言われちゃあ……vv

Sugar Kingdom サマヘ ちなみに、藍羽様のサイトはこちらですvv

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

ご感想はこちらvv  

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